〜EUS(超音波内視鏡)の大切さ〜
膵臓がん(すいぞうがん)は、がんの中でも特に命に関わることが多く、見つかったときにはすでに進んでしまっている場合がほとんどです。発見が遅れやすいため、治療しても5年後に生きていられる人の割合は10%に満たないといわれています。
その理由は、がんを見つけるのがとてもむずかしいことにあります。膵臓という臓器の場所や、症状が出にくいこと、検査の限界など、いくつもの原因が関係しています。
1. 膵臓の場所と形のせいで見つけにくい
膵臓はお腹の奥、胃のうしろ側にある臓器です。外から見たり、さわったりするのがむずかしい場所にあります。また、膵臓は「頭」「体」「しっぽ」の3つの部分に分かれ、それぞれが違う臓器とくっついています。そのため、がんができる場所によって、出てくる症状も大きく変わります。
とくに膵臓のしっぽにできたがんは、胆管(たんかん)や十二指腸(じゅうにしちょう)と離れているため、黄疸(おうだん)や消化の症状が出にくく、もっと見つけにくくなります。症状が出たころには、すでにまわりの臓器に広がったり、ほかの場所に転移したりしていることが多いです。
2. 自覚症状が少なく、はっきりしない
膵臓がんの初めのころには、ほとんど自覚症状(自分で気づける症状)がありません。あったとしても「食欲がない」「体がだるい」「みぞおちや背中が重い」など、がんとわかりにくいものばかりです。これでは、患者さんが「おかしいな」と思って病院に行くきっかけになりにくく、医師も気づきにくいことがあります。
3. 血液検査や画像検査にも限界がある
膵臓がんの検査では、「腫瘍マーカー」という血液中の物質(CA19-9やCEAなど)を調べることがあります。でも、これらはがんが進んでいるときには上がることがありますが、早い段階ではあまり変化が見られないことが多いです。さらに、他の病気でも上がることがあるので、がんかどうかをはっきりとは分かりません。
CTやMRIといった画像検査でも、ある程度大きながんなら見つけられますが、数ミリしかないような小さながんや、膵臓の中の細かい変化までは見つけにくいことがあります。
4. 健康診断では見つけにくい
ふつうの健康診断では、胃カメラや腹部(おなか)の超音波、血液検査などが行われますが、膵臓をしっかり調べる項目はほとんどありません。
腹部の超音波検査では、おなかの中にガスがあったり、体型の影響を受けたりして、特に膵臓のしっぽの部分が見えにくくなることが多いです。こうしたことが、膵臓がんの発見が遅れてしまう原因のひとつになっています。
5. EUS(超音波内視鏡)という検査の強み
こうした膵臓がんの検査のむずかしさをカバーできるのが、EUS(イーユーエス)という検査です。これは、「超音波内視鏡(ちょうおんぱないしきょう)」という方法で、胃や十二指腸の中から膵臓に向けて超音波を当てて、詳しく画像を見ることができます。
EUSのよいところ:
・数ミリの小さながんや、膵臓の中のわずかな変化もはっきり見つけられます
・ふつうのエコーやCTで見えにくい膵臓のしっぽもよく見えます
・嚢胞(のうほう:液体がたまったできもの)や慢性膵炎などと区別するのにも役立ちます
・必要に応じて、EUSを使ってがんの組織を採取する検査(EUSガイド下穿刺吸引:FNA)もできます
EUSは、膵臓がんになりやすいとされる人(慢性膵炎や糖尿病が急に悪化した人、膵臓に嚢胞がある人、家族に膵臓がんの人がいる場合など)の検査にとても役立つとされています。
6. 地域の病院でもEUSが重要です
これまでは、EUSは大きな病院でしか受けられないことが多かったのですが、最近では、地域の病院にも専門の医師がいて、EUSが受けられるところが増えてきました。
ふだんの診察の中で、リスクが高い人を見つけて、EUSなどの検査を行ったり、大きな病院へ紹介したりすることが、膵臓がんの早期発見につながります。
これからは、糖尿病や膵炎、おなかの症状がある人に対して、地域でもEUSを使った詳しい検査ができるような体制を作っていくことが大切です。
おわりに
膵臓がんが見つかりにくいのには、臓器の場所や症状の出にくさ、検査の限界など、いろいろな原因があります。その中でも、EUSはとても精度の高い検査であり、膵臓がんを早く見つけるのに大きく役立っています。
これからは、誰にEUSを使うべきかをしっかり考えながら、この検査をうまく活用して、膵臓がんの早期発見と治療の成果を上げていくことが求められています。